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PHASE−06
 「敵軍の歌姫」

 ヴェサリウスはアルテミスで一旦アークエンジェルの追撃を諦め、一度プラントに帰還して体勢
を整える事にした。艦自体の修理の必要があることと艦に搭載されている機体の余剰パーツを
全て消費してしまい、クルーゼの方も本国に査問会の報告役として呼ばれている為、彼らは僅
かな時間ではあるが、久々の休暇を与えられることになった。
「まさか、連合軍の2機があれ程の性能を持っているとは。パイロットも伊達ではないと言う事
か?」
「ああ、そうだ。ゲイル―リック=エンバースとか言うパイロットは、俺達と同じコーディネイターで
ありながら地球軍に手を貸している。それに強い。俺があそこまで追い詰められたのはランド、
お前とアスラン、それに隊長以外では初めてだ。ストライクの方も未だ本格的に剣を交えた事は
無いが、あの反応は並ではない。今の内に叩いておかなければ、これ以上の痛い目を見る事に
なるだろう」
「だが、これで分かった事が一つある。やはり俺達が纏まらない事には、奴らには勝てん」
 更衣室で、軍服から私服に着替えているのは、先程の戦闘の功労者ジェークとランド、それに
イザークの三人。三人ともその表情は真剣で、どうやら先程の戦闘の反省をしているらしい。
「しかし、エンバースか。どこかで聞いた気がするが……」
「それはそうと、イザーク、アリスちゃんとは一体何処まで行ったのかなぁ? 最近、ずっと一緒
にいるよな?」
 考え込むイザークに、先程の真面目な態度とは一転して、ランドが砕けた口調で質問する。悪
魔みたいな角と尻尾が生えているような気がするが、敢えて無視する事にしよう。
「何処までって、格納庫までだが?」
 イザークはランドの質問に素で返した。実際、アリスと一緒にいるのは機体の調整とお互いの
戦闘での動きを論じているからで、そう答えるのも当然である。
「それにしては仲が良すぎるんじゃないのか? 最近ディアッカが『付き合いが悪くなった』って嘆
いてたぞ」
 今度はジェークがそう言って目を細めイザークを見る。アリス応援会(勝手に設立)副会長とし
ては気になる所なのだろう。
「う!? そ、それは、その、あれだ、アリスが四六時中くっ付いてくるからであってだな!」
 痛い所を突かれたイザークは思い切り動揺し始めた。自分でも気付かない内に思い当たる節
があるのかもしれない。
「ほぉ〜。だったら『ついて来るな!』って強く言えばいいじゃないか。ほれほれ、正直に副隊長
に言ってみ? 本当はアリスが好きだ、と」
 ランドはそう言ってイザークの肩を叩く。良くも悪くもイザークは表裏の無い、嘘とは無縁の人
間だ。その為、予想外の質問には弱い。
「お、俺はおしとやかで、礼儀正しく、何処か放っておけないそんな家庭的な女がいいんだ!」
 イザークはそう言ってランドの手を払う。しかし、イザークは後悔した。自分が常々思っている
理想のタイプが、
「「それって、まんまアリスの事じゃないのか?」」
 ジェーク、ランドの指摘通りだという事に。
「やれやれ。結局、ノロケてるんじゃないか。アリスへの接し方が俺達に接する時とは大違いだし
な」
 ジェークとランドはそう言ってニヤリと微笑む。敵の首を取ったり、という顔だ。
「何だ、その勝ち誇った顔は! 母上が常日頃から『女性を大切に出来ない男は最低だ』と常に
仰られているからであって、深い意味は無い! と言うか、お前たちこそどうなんだ!!」
 イザークは真剣な態度で、ジェーク達に逆に質問した。
「俺は、女であれば誰でもOK! どんと来いって感じだな!!」
 ランドは胸をそらして大威張り。しかしそれは、
「「無節操とも言えるがな」」
 ジェーク、イザークの言う通りだ。
「じゃあ、ジェークはどうなんだ?」
 気を取り直したランドはそう言ってジェークを見る。
「俺か? 俺は……多分、真剣に女性と付き合える事は無いだろうな。別に遊び人な訳じゃな
い。失うのが怖いんだ。自分の大切な人が死ぬのは、もうたくさんだ。だから―」
 ジェークの脳裏には、「血のバレンタイン」で死んだ人たちの顔が思い浮かんだ。優しかった両
親にたった一人の妹、幼馴染の顔が浮かんでは消えていた。誰も愛さなければ、傷つくことは無
い。それがジェークの心の中にある『闇』だった。人を寄せ付けない冷たさを纏う事が―彼の繊
細な心を守る唯一の手段だったのだ。
「お前にはちゃんと力があるだろうが。俺はお前の実力を認めている。少なくとも、俺が知ってい
るジェーク=ノーマンは、そんな軟弱者ではないがな」
「お前の言いたい事も分かるが、それではいつか潰れるぞ? それにお前のその辛さを理解し、
受け止めてくれる女性(ひと)はきっと現れる。その時はその女性に頼れ。人を信じるのも、また
強さなんだと思うぞ」
 ランドとイザークはそう言ってジェークの背中に平手打ちを叩き込んだ。らしくないぞ、の意味を
込めて。
「痛っ! お前ら何をするのかな、いきなりよ!」
 ジェークはそう言って、二人に圧し掛かった。
「ってちょっと待て!」
「おわっ!?」
 予期せぬジェークの攻撃にランドとイザークの足が縺れた。回避行動を取る事すら出来ずに、
床に三人揃ってダイブ。起き上がろうとしたが、強かに身体を打ちつけて起き上がれない。とそ
こへ間が悪いことに、
「ふー、疲れた」
「もうすぐプラントに帰れますね。ディアッカも懐かしいでしょう?」
「ああ。けどよ……」
 今度は多感な少年二人がノックもせずに更衣室に入室してきた訳で。
 その光景を見て、たっぷり十秒が経過してから、
「な、何してんだお前ら!?」
「…………」
 と、ディアッカは驚いたように言い、ニコルは顔を赤くし言葉を失っていた。まあ、目の前で起き
てるこの状況を見れば、当然の反応だろう。
「お前ら、いくらモテないからって……」
「違う! 違うぞ、ディアッカ!」
 三人は必死になって、説明する。おかげで誤解は解けたが、ディアッカはニヤニヤ笑ってい
る。後でレナ辺りに面白おかしく話すつもりなのだろう。三人は特にディアッカに、固く口止めする
よう約束させた。
 その後、ジェーク達は私服に着替えて、食堂に繰り出した。
「そういえば、アスランは何処に行ったんだ? さっきから姿が見えないようだが」
「確か、クルーゼ隊長と一緒に評議会に呼ばれていたはずです。僕達の奪取した5機について
の報告でしょう」
 ジェークの問いに、ニコルがナプキンで口を拭きながら答える。
「確かにアスランなら冷静な判断が出来るし、適任だな。ついでに親父さんに会っているのかもし
れない」
 ランドはコーヒーを飲みながら頷いた。
 そこで、『歌』が聞こえてきた。目の前にあるプラズマビジョンからの放送だ。画面にはピンク色
の髪をした少女が、プラント内の草原で歌っている。
「お、アスランの婚約者じゃないか。あいつ、会いに行ったかな?」
「いえ、ラクスさんは追悼慰霊団の船に乗っているはずですから、会えないんじゃないでしょう
か?」
 ディアッカとニコルはそう言って画面を見た。
 ラクス=クライン。プラント穏健派の実力者、シーゲル=クラインの娘。その優しい歌声でプラ
ントの人々を和ませる歌姫にして、アスランの婚約者だ。
「……くっ!」
 ジェークが横を見ると、イザークが悔しそうに呻いている。彼の目線は正面のプラズマビジョン
に釘付けだ。
「ん? どうしたイザーク?」
「…………」
 ランドの問いにも反応はない。心ここにあらずという感じである。
「あっ? あんた達、こんな所に居たのね」
「こんにちは、皆さん」
 そこへ、私服に着替えたレナとアリスが現れた。二人とも、シャワーを浴びたばかりなのだろう
か、髪が濡れている。
「ってどうしたの、イザーク?」
 レナはすぐにイザークの異変に気付いたが、彼女の質問にもイザークは答えない。そして、ジ
ェークの顔を見て、
「ジェーク。お前に頼みがある」
「? 何だ?」
「……のサインをアスランの奴に…れ」
「は? 聞こえないぞ。いつもの調子で話せよ」
 ジェークは苦笑してイザークの肩を叩く。別に嫌味などではなく、本当に聞こえなかったのだ。
「くっ! アスランの奴に、ラクス=クラインのサインを頼むと言ってくれ、と頼んでいるんだ!」
 イザークは立ち上がると、食堂中に響く大声で叫んだ。周りの眼など、まったく気にせずに。イ
ザークらしいといえばらしいのだが、これがマズかった。
「何? イザーク、お前、ラクス=クラインのファンだったのか!?」
「イザークも音楽に目覚めたんですか? 彼女の歌は確かにいいですよね」
 ディアッカは驚きのあまり椅子から転げ落ち、ニコルは微笑んでうんうん頷いている。音楽的才
能を持っているニコルだ。何か感じるところでもあるのだろう。
「……くくっ! イザーク、これでお前は隠れファンじゃなくなってしまったな。何せ思い切りカミン
グアウトをしたからな」
 ランドは戦闘中には見せた事のない、意味のある含み笑いでイザークの肩に手を置く。
「そうなんですか? やっぱり、イザークさんはあの方の様な女性が好みなんですね……」
 アリスは今にも泣きそうな顔で、イザークの顔を覗き込む。
「しっかし、ここまで素直に宣言されると、かえって気持ちいいわね」
 レナは何故か憂いを秘めた表情で遠くを見つめていた。
 そして当のイザークは、肩をワナワナ震わせている。ジェークに対して怒っているのは明らか
だ。
「ジェーク、貴様、わざと聞こえない振りをしたな! まさか、これが狙いだったんじゃないだろう
な?」
 イザークはそう言って、幽鬼さながらの顔でその場を逃げようとするジェークに振り返った。そ
の表情には負の感情が目一杯張り付いている。
「いや、本当に聞こえなかったんだよ! 落ち着け、まだ大丈夫だ。お前が部屋にラクス嬢のポ
スターをデカデカと貼ってる事とか、CDを全部、初版限定版で買ってる事とかはまだバレてな…
…あ!」
 ジェークは声高らかに、イザークの全ての秘密をうっかり暴露してしまった。
「……マジ?」
 イザークとジェークを除く全員が硬直する。
「ジェーク……貴様という奴はーーーーー!!」
 イザークは顔を真っ赤にしながら吼え、ジェークに掴み掛る。
 こうしてイザーク最大の秘密、『意外とアイドル大好き人間』はあっさりとバレてしまった。まあ、
秘密というものはいつか必ずバレるものだ。



 一方、アークエンジェルでは、
「水ぅ! もっと水をくれ!」
 食堂で食事を取っているトールが、虚空に手を伸ばしながら悶絶していた。
「おいおい。そういう洒落になってない冗談はやめろよ?」
 そんなトールを、カウンターで自分の分のトレーを取っているサイが嗜めた。
「ばっ! 冗談じゃないって! マジで死ぬトコだったんだぜ?」
 トールは水を飲んだ後、サイに向き直った。どうやら本当に喉に詰まらせていたらしい。
「しっかし、水は俺達の生命線だからな。アルテミスでは結局まともに補給が出来なかったから、
依然苦しいままだぜ」
 リックはそう言って、トーストを口に放り込んだ。で、
「む!? ゴホッ!」
 喉に詰めてむせ返る。
「近くには補給できそうな場所なんて無いしね。水が無いと、機体の整備も出来ないよ。って、は
い」
 キラはトーストを食べる手を休めて、リックに自分の水を差し出した。リックは大急ぎで水を飲
む。
「サンキュー。しかしキラの言う通りだな。ったく、前途多難なこった」
 リックは溜息を吐いて、背もたれにもたれ掛かった。
 彼らの目の前では、サイとフレイが奇妙なやり取りをしていた。フレイの横に座ろうとしたサイ
を、フレイが横にずれて避けているのだ。
「何? どうしたの?」
「だって・・・昨日から水の使用制限が始まって、シャワー浴びられなかったんだもん」
 フレイは顔を赤らめながら、ぽつりと呟いた。
 一同、沈黙。そして深い溜息。
「分かるわ、それ。女の子は彼氏の前では完璧に振舞いたいのよね。フレイったらかわいい!」
 クリスはそう言って、フレイの肩をバシバシ叩き始める。
「ちょっと、痛い! 痛いってば!!」
 避けようとするフレイだが、左右にサイとクリスが座っている為に、回避できない。結局一分は
叩かれる羽目になった。
「ふ〜ん。そう言うもんなのかねー? 俺にはよく分からん」
 リックは言う。今まで戦闘訓練やギターにケンカと、華のある生活とは無縁だったリックにとっ
て、女心など到底理解出来るはずもない。
「ふーん。では、リックさんの好きな女の子のタイプを教えてくれませんか?」
 クリスはリックに向かって、こんな事を言い出した。
「おいおい、いきなり何だよ?」
「いいから! 大事なことなんですっ!」
 戸惑っているリックに対して、クリスはテーブルから身を乗り出して、彼に詰め寄る。
「うーん、まあ、別にいいけどよ。そうだなあ、腰元まである美しい髪に性格はおしとやかで、隣に
居て安心できる人。それに家事が出来る人だな。俺は彼女と一緒に料理をするってのがささや
かな夢なんだよ…って笑うな! 特にキラ!」
 リックは顔を真っ赤にしながら、照れ隠しのグリグリを、苦笑しているキラのこめかみに入れ
た。
「ふふふっ……。では、リックさん、貴方が彼女を自分の部屋へと招待するとします。これは仮定
ですけど、貴方の部屋はとても散らかっていて足の踏み場もありません。さて、そんな部屋にリッ
クさんは彼女を招き入れますか?」
 クリスは微笑を浮かべてリックに訊く。
「ん? いや、さすがにそんな部屋には招待出来ないな。取り敢えず綺麗に片付けて…ああ、そ
ういう事か。フレイはサイに嫌われたくないから、その為に拘るんだな」
「そうそう。分かっていただけたんですね」
 クリスは大きく頷いて笑う。恋人の前では誰だって意識しなくても細かい所を気にしてしまうもの
なのである。
「クリスって私達とそんなに年は変わらないのに、何か大人っぽいよね」
 ミリアリアがそう言ってクリスを見た。その瞳には羨望の色が浮かんでいる。
「そんな事無いわよ。未だに彼氏なんかいないしね」
 ミリアリアの言葉にクリスは苦笑して答えた。
「そうなんだ。ねえ、クリスの好きな男性のタイプはどんな人なの?」
 フレイが質問する。
「それは俺も興味があるな。俺の好きなタイプを教えたんだから、是非教えて貰いたいね」
 リックも興味を持った様だ。
「私はそうねえ……。自分が好きになった人が理想のタイプになるんじゃないかな? 強いて言
えば、私の事を頼ってくれる人とかがいいかな」
 付け合せの野菜を食べながら、クリスはそう言った。そこへ、
「リック=エンバース伍長、キラ=ヤマト君。至急、艦橋まで来てください」
 マリューからの艦内放送が入る。
 しばしの休息は終わり、また慌しい時が始まる。



「え? 俺達補給が受けられるんですか?」
 艦橋についたリック達。サイがマリューとフラガを交互に見て質問した。
「え? いや、その、何だ……。勝手に補給すると言うか、な」
 しかし、フラガは妙に歯切れの悪い答え方をした。そしてマリューを見る。
「私達は、デブリベルトへと向かっているの」
「何だって? デブリベルトだと!? あそこは……」
 デブリベルトと言う単語を聞いたリックの顔に、嫌悪の表情が浮かぶ。
「そう。デブリベルトには、私達が生み出した様々なものが漂っています。そこには無論、戦闘な
どで破壊された戦艦などもあるわ」
 マリューも最後は歯切れ悪く答える。
「やっぱりな。確かにこの状況じゃ仕方ないかもしれないが、それは墓荒らし以外の何物でもな
いんじゃねーのか?」
 リックは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「仕方ないだろう? この状況を打破するには」
 フラガの言う通りではある。それでも、あまり気持ちのいい事ではない。
「貴方達には、作業用ポットを使って探索の手伝いをして貰いたいの。リック君とキラ君には、万
が一の時の為に機体で出撃。お願い出来るかしら?」
 マリューの言葉にリック達は不信と怒りの眼差しを向けた。死者の安眠をこちらの都合で妨げ
るのは納得できない。皆、いい意味でも悪い意味でも『若い』のだ。
「嬉しくないのはこちらとて同じだ。しかし、それ以外に方法はないのだ、私達が生き残るには
な」
 ナタルが険しい顔をして、リック達に告げる。彼女は軍律には厳しいが、全く人間味が無いわ
けではない。それは彼女が浮かべる苦悩の表情で分かるだろう。
「何も彼らの眠る場所を漁り回る訳ではないわ。ただ、私達の必要な物を、ほんの少し分けて貰
おうというだけ。生きるために」
 マリューはそう言って、目を伏せた。
「…………」
 こう言われては、リック達も反論できない。彼らとて、こんな所で干からびるつもりは無かった。
 そして、アークエンジェルはデブリベルトへと到着した。



「……これは!」
 アークエンジェルより出撃したリック達は、デブリベルトの奥に向かって進んで いく。そして彼ら
は見つけてしまった。血のバレンタインで核を撃ち込まれた『ユニウスセブン』の残骸を。
「………………」
 アークエンジェルのメインモニターでもそれは確認された。マリューは驚きのあまり、口元に手
をやったまま固まっている。
「きゃあああっ!?」
 キラが開けた扉の中には、幼子を抱いたまま漂っている母親の屍。ミリアリアは後ろに下がっ
たが、彼女をトールが無言で支えた。リックやキラの顔も、一瞬翳りを見せたが、気を取り直して
探索を開始した。



「あそこの水を使うって、本気なんですか!」
 一度アークエンジェルに帰還したリック達は艦橋で言い争っていた。今の発言はキラのもので
ある。
「あそこには一億トン近い水が凍り付いているんだ」
 そんなキラに対し、あくまでも淡々と告げるナタル。
「そんな……。でもナタルさんだって見たでしょう? あのプラントは「血のバレンタイン」で何十万
人もの人々が……。それを!」
 それでもキラは言葉を吐き出す。彼がここまで怒りを表すのは珍しい。
「水はそれだけしか見つかっていないの」
 マリューの言葉を継いで、ムウが、
「俺だってあんな場所には踏み込みたくはないさ。けど、仕様が無いだろう。俺達は生きている
んだ! って事は生きなきゃなんねーって事なんだよ!」
 と叫ぶ。そしてリックも、
「落ち着け、キラ。おっさん達は間違った事は言ってない。墓荒らしみたいで嫌な仕事だけど、仕
方ないんだ。俺だって納得できないけどよ」
 と言う。リックの言葉に、キラも怒りを静めて黙り込んでしまう。それは皆も同じだった。
 そして彼らは折り紙で花束を作った。一枚一枚に心を込めて。『どうしても行く』とついて来たク
リスが、ミリアリアと一緒にその花束を星の海に向かって差し出す。それを合図にアークエンジェ
ルのブリッジでは、マリュー達が右腕を胸にやり黙祷を捧げた。



 プラントでの査問会を終えたアスランは、シーゲルやパトリックとの会話を終えた後、母親の墓
に花を供えていた。緑一面の草原に日の光を受けて黄色に染まる墓石に、黄色い花束が映え
る。アスランの胸中には、父パトリックの言葉が焼き付いていた。
『戦わなければ平和は訪れないのであらば、我々は戦わねばならんのです!』
 一瞬悲しそうな顔をしたアスランだったが、立ち上がり、その場を後にした。



 デブリベルトでは氷の搬入作業が始まっていた。キラとリックは哨戒の為に近くを飛び回ってい
る。そこで二人は、奇妙な物を見つけた。
「あれは、輸送船?」
「みたいだな。しかし、どうしてこんなトコに居るんだ? ってキラ!」
 ゲイルとストライクのセンサーに敵の接近を知らせる警報が鳴り響く。二人が近くの岩陰に身
を隠した直後、一体の黒いジンが輸送船に接近した。
「強行偵察型、複座のジン!? 何でこんなところに?」
 キラがそう呟いたところで、ジンは輸送船から離れ、辺りを警戒し始める。
「マズいな。アークエンジェルが見つかったら、作業をしているサイ達が危ねえ! キラ!」
 リックはビームライフルの照準をジンに向ける。キラもリックに倣った。
「行け……。行ってくれ。早くあっちに!」
 キラは祈るような思いで、トリガーに指を掛ける。だが、彼の祈りは届かなかった。作業ポット
を見つけたのか、ジンはライフルを構えながら接近してくる。
「ちっ! 何で気付くかな!」
 リックは呟いて、トリガーに手を掛けて待つ。
「あれは……ザフトの!?」
「うわあああ!?」
 その作業用ポットに乗っていたのはチャンドラー伍長とカズイだった。ジンは容赦なくライフル
を発射した。
「野郎!」
 リックはすぐにビームライフルを発射した。一筋のビームがジンの左肩を吹き飛ばす。
「外した!? キラ、頼む!」
 リックの言葉にキラは、二度トリガーを引いた。放たれた二筋のビームはジンのコクピットに吸
い込まれた。ジンは二、三度宙に翻ったが、ついに爆発した。
「あ、ありがとう、助かったよキラ!」
 カズイからの通信が入ったが、キラはスイッチをすぐさま切った。彼の両手はトリガーから離
れ、震えていたがすぐに拳を握り、コンソールを叩いた。
「っく……ううっ」
 涙が自然に溢れる。ミゲルを倒した時は無我夢中で分からなかったが、今回の場合は避けら
れた戦闘だったかもしれない。キラは初めて、自覚して「人を殺した」。
「キラ……」
 リックは何も言えなかった。キラは確かに高いパイロット能力を持っているが、精神はそこまで
強くない。戦うとキラは決意したが、それでも越えられないものはある。
『そっとしておくしかないか』
 リックがそう頭を振った時、ゲイルのセンサーが新たな反応を捉えた。カメラを拡大すると、ど
うやら脱出ポットの様だ。
「おい、キラ! あれを見ろ!」
 リックはすぐにキラに通信を送る。



 アークエンジェルの格納庫。
「つくづく君達は落し物を拾うのが好きなようだな?」
 またナタルに怒られると思っていたリックとキラだったが、意外にも穏やかな口調だったのに驚
いた。ナタルも二回目の「偶然」に、怒る気も失せたのだろう。
「開けますぜ?」
 マードック軍曹が、手元の機械を操作してポットのロックを解除した。そこから出てきたのは、
「ハロ! ラクス! ハロ!」
 ピンク色をした奇妙な球体だった。
「?」
 皆が驚いて、それを目で追う。そして、
「ありがとう。ご苦労様です」
 女性の声が聞こえて、皆は再びポットに目を戻す。ポッドから、ピンク色の髪をした少女が、丁
寧な物腰と優雅な立ち振る舞いで出現した。
「はぁ……」
 リック達は呆然として、その光景を見守っていたがすぐに現実に戻ってきた。
「あら? あらあらあら?」
 少女は驚いた顔をして、宙に浮かんでいる。その周りをハロが飛び回る。
「あ……」
 キラはその少女の腕を掴んで地面に立たせた。
「ありがとう」
「あ、いえ……」
 少女に礼を言われ、キラの顔がほんのりと赤く染まる。
「お前は余程、女に縁があるんだねぇ」
 リックはその光景を見て肩を竦めた。
「ん? あら? あらあら?」
 少女は暫くキラに微笑んでいたが、彼の左肩にある地球軍の軍章を見て、再び驚きのジェス
チャー。こんどはマリュー達の階級章を見て、
「まあ! これはザフトの船じゃありませんのね?」
 と頬に手を当てた。彼女も驚いているようだが、リック達も驚いた。『ザフト』という単語を聞い
て、少女に全員の視線が集まった。
「はぁ……」
 ナタルはがっくり頭を垂れて額を押さえる。よりにもよって、リック達が助けたのが敵の人間だ
った事にショックを受けたらしい。
「はい?」
 現時点では最高の権力者であるマリューも呆然としている。ちなみにキラはその少女を見てま
だ赤くなっていた。



 アスランは軍事基地の中の一室でシャワーを浴びていた。彼は部屋に鳴り響くコール音に気
付いて、浴槽から出る。バスローブを羽織り、髪を拭きながら、壁に設置されているモニターのス
イッチを押した。
 女性士官が画面に現れて、アスランに淡々と命令を告げる。彼は復唱した後、モニターのスイ
ッチを切って、ノートパソコンの電源を入れた。
 ディスプレイには男のニュースキャスターが、今回の追悼慰霊団の代表ラクス=クラインが乗
っていた船と共に消息を絶ったという記事を告げている。アスランは短い驚きの声を上げると、
ディスプレイを覗き込んだ。
「ラクスが!?」
 アスランは暫く画面を眺めて呆然としていた。



 キラによって救助された少女は、アークエンジェルの一室でマリュー、フラガ、ナタルたち主だ
った士官と会話をしていた。
「ポッドを拾っていただき、有難うございます。私はラクス=クライン。この子は友達のハロです」
 ラクスはマリュー達に、ピンク色をしたハロを見せる。彼女はほんの挨拶を交わしたつもりだっ
たのだが、
「はあ……」
「やれやれ……」
 それを見たマリューとフラガは額に手を当てて溜息を吐いた。敵の戦艦に居るというのに、桃
色の髪の少女に全くといっていいほど、緊張感とかいうものを感じ取れない。
 扉一枚隔てた所では、サイやトール達が聞き耳を立てながら、
「何言っているか聞こえないよ」
「つーか、静かにしろって」
 こんな会話をしている。それを少し離れたところで、リックとキラは眺めていた。
 直後、扉が開き、
「お前達にはまだ積み込み作業が残っているだろう? さっさと仕事に戻れ!」
 と、ナタルがサイ達を一喝。彼らは蜘蛛の子を散らす様に走っていく。しかし、扉が開いた為に
ラクスはキラを見つけ、にこやかに手を振った。それは親友に宛てるかのように自然な動作。
「随分と気に入られたようだな。お前、間違いなく女ったらしになる」
「そんな事無いよ!」
 リックとキラは、ナタルに見つからない内にその場から離れた。
「クライン、ね。現プラント最高評議会議長をシーゲル=クラインと言ったが…」
フラガが真剣な瞳でラクスを見据えたが、彼女は笑みを浮かべて、
「あら、シーゲル=クラインは私の父ですわ。ご存知ですの?」
 あっさりこんな回答をした。フラガ二回目の溜息。騒ぎ立てられるのも迷惑だが、こんな風にマ
イペースを貫かれるのは予想以上に疲れる。
「はあ……。で、どうしてそんな方がこんな所に?」
 マリューもそう思ったのだろう。椅子に深く背を預けて、質問を始める。
「私達は、ユニウスセブンの追悼慰霊の為の事前調査をしておりましたの。そうしたら地球軍の
船と、私達の船が出会ってしまいまして……。どうやら地球軍の方々にとっては、私達の目的が
お気に障ったのかもしれませんね。それで私は周りに居た者達によって、ポットから脱出させら
れたのです」
 ラクスは表情を変えずに淡々と説明をした。その説明を聞いた三人は顔を見 合わせる。地球
軍の船が彼らの船に攻撃を仕掛けた事は明白だ。
「何て事を……」
 マリューはそれだけを言うのが精一杯で、ラクスの顔を覗き込む。自分が所属している地球軍
が、こんな非道な真似をするのがショックだったのだろう。
「それで、貴方の船は?」
「分かりません。あの後、地球軍の方々は……。お気を沈めて下さっていれば良いのですが」
 フラガの問いに、ラクスは初めて表情を曇らせて俯いてしまった。



 プラント、ヴェサリウスが保管されている格納庫では、
「彼女を救って、ヒーローの様に振舞えって事ですか?」
 アスランがパトリックの背中を見送りながら、不機嫌な声でクルーゼに話しかけた。
「もしくはその亡骸を号泣しながら抱いて戻れ、かもしれんがな」
 クルーゼもまたパトリックの背中を見送ったまま、相変わらず抑揚の無い声でアスランに答え
を返す。
「ふっ。どちらにせよ、君が行かなければ話しにならんとお考えなのさ。ザラ委員長は」
 クルーゼはアスランの動揺を無視して、奥の通路に消えていった。



 リックとキラは無言で通路を歩いている。キラは先程のデブリベルトでの戦闘を思い出してい
た。トリガーを引いた感触が、まだ手に残って震えている。
『やっぱり、気にしているんだろうな』
 リックはキラの心中を察したが、あえて何も言わずにキラと歩調を合わせる。
「リック、あの複座のジン、もしかして……」
 先程倒したジンは、脱出ポットから出てきたあの少女を救う為に索敵をしていたんじゃない
か?とキラは考えていた。それをリックに伝えようとした瞬間、
「嫌よ!」
 食堂の方から、フレイの不機嫌な声が聞こえた。何かトラブルでもあったのだろうか? 二人
は小走りで食堂に足を向けた。
「ちょっと、フレイ?」
「嫌ったら嫌!」
「どうしてなの、フレイ? ちゃんと理由を言わないとダメでしょ?」
 どうやらミリアリアとフレイが言い争い、と言うか、ミリアリアの言葉をフレイが頑なに拒否してい
るらしい。そしてフレイを宥めようと、クリスが諭すように話しかけている。
「どうしたんだ?」
 リックは三人に視線を向けてから、カズィに向き直った。
「あの女の子の食事だよ。ミリィがフレイに持って行ってと言ったら嫌だって……」
「私は嫌よ? コーディネイターの子の所に行くなんて! 怖いもの!」
「フレイ!」
 ミリアリアがフレイを窘める為に強く彼女の名前を呼ぶ。フレイは、はっとキラの方を向いて、
「あ、勿論、キラは別よ? それは分かってるけど、でも、コーディネイターって頭いいだけじゃな
く、身体能力も凄いんでしょう? もし、襲い掛かられたらどうするのよ?」
 コーディネイターに対する嫌悪感を隠そうともしないフレイの発言。リックは不快感を感じた。ふ
と、キラを見ると彼は唇を噛み締めている。見るに見かねてリックがフレイに詰め寄ろうとしたそ
の時、
「まあ。誰がお強いのですか?」
 ピンク色の髪をした少女が、優雅な立ち振る舞いで食堂に入って来た。噂の主であるラクス本
人の登場。さすがにリック以下全員の時間が止まる。
「あ、驚かせてしまったのなら済みません。私、喉が渇いて。それに笑わないで下さいね? お腹
の方も大分空いてしまいましたの。こちらは食堂ですか? 宜しければ、何か食べるものをいた
だけたら嬉しいのですが……」
 ラクスは丁寧な物腰で食堂を見回している。驚く一同の中で、最初に口を開いたのは、意外に
もフレイだった。
「嫌だ……。何でザフトの子が勝手に歩き回ってんの?」
 フレイは嫌悪感露わにラクスを見つめるが、彼女は、
「あら? 勝手にではありませんわ。私、ちゃんとお部屋で訊きましたのよ。『出かけても良いで
すか』って。それも三度も」
 ほわわんとした微笑を浮かべてリック達を見回した。又も彼らは絶句。
「それに私はザフトではありませんわ。ザフトは軍の名称で、正式にはゾディアック・アライアン
ス・オーブフリーダム―」
「何だって一緒よ! コーディネイターなんだから」
 なおも話し続けるラクスを、フレイが怒りの形相で止めた。
「同じではありませんわ。確かに私はコーディネイターですが、軍の人間ではありませんもの。貴
女も軍の方ではないのでしょう? でしたら、私と貴女は同じですわね」
 フレイの態度に小首を傾げたラクスだったが、すぐに右手を差し出す。万国共通、挨拶と親愛
の情を込めた行動だ。
「ご挨拶が遅れました。私は―」
「ちょっとヤダ、止めてよ!」
 さらに自分の名を名乗ろうとした矢先、フレイが一歩下がってラクスを睨みつける。
「冗談じゃないわ! 何で私があんたなんかと握手しなければならないのよ!」
 フレイの言葉と態度には、怒りと恐怖の感情が混じっている。キラはそれを見て俯き、リックは
拳を握ってフレイを睨んだ。
「?」
 きょとんとしているラクスに向かって、フレイは決定的な一言を口にしてしまう。
「コーディネイターのくせに、馴れ馴れしくしないで!」
 その場にいた全員の表情が凍り付いた。最もその言葉を聞きたくなかったのはキラだろう。彼
の表情はそれほどまでに凍り付いていたのだ。
 そしてリックは、遂に我慢の限界を超えた。彼の唇から、一筋の血が流れ落ちる。それを拭お
うともせずに、リックはフレイに吼えた。
「コーディネイターの何処がいけねーんだ!? それともナチュラルじゃなきゃ仲良くなれないっ
て言うのかよ!? お前は今、その言動で、お前らを守ってくれているキラまで否定したんだ
ぞ! お前にとってキラは友達じゃねーのか!?」
 コーディネイターとナチュラル。人種を超えた繋がり合いを模索しているリックにとって、フレイ
の発言は無視出来なかった。リックのいつもとは違う態度に、食堂にいる全員が言葉を失う。
「!? な、何よ……」
 フレイは反射的に後ろに引いた。クリスからも激しい怒りの声が上がる。
「フレイ、いい加減にしなさい! 握手を求めて来た人に対して、貴女はそんな態度をとるの? 
それに、キラ君が今の発言でどれだけ傷ついたのか分かってるの? すみません、この子の失
礼は私が代わりに謝ります。私はクリスティー=オリバーです。ええっと―」
 最初に動き出したのはクリスで、彼女はフレイに強い態度で言ったかと思うと、ラクスの方に向
き直って右手を差し出した。
「私はラクス=クラインと申します。私の方こそ、いきなり握手をしようとしたのが悪いのですわ。
びっくりなされたのだと思います」
 ラクスもクリスにならって右手を差し出し、握手を交わした。
 その光景を見て、リックは知らず知らずの内に笑みを漏らしていた。クリスだって内心、ラクス
に接するのが嫌なのかもしれない。それでもこうして握手を交わしてくれたのは、自分の事の様
に嬉しかった。
「ラクスさんは、お腹が空いているんだろう? ちょうどランチが1セット残っているみたいだか
ら、部屋まで運んでやるよ。キラ、ついて来い」
「あ、うん。こんなトコ見つかったらナタルさん辺りが五月蝿いだろうしね」
 キラはくすりと笑って、ランチが乗っているトレーを取った。
「あはは、お前も言うようになったじゃねーか! よしよし、お兄さんは嬉しいぞ」
「痛い痛い! 嬉しいならグリグリはしないでってば!」
「二人とも、遊ぶのはラクスさんに食事を運んでからにしてください。さあ、ラクスさん、行きましょ
う」
「ええ、クリスさん」
 二人はそう言って食堂から出て行く。リックとキラも、慌てて後に続いた。ミリアリア、フレイ、カ
ズイの三人は行き場を失い、食堂に残っていたが、
「フレイって、ブルーコスモス?」
 不意にカズイが、フレイに向かってこんな事を言い出す。
「違うわよ!」
 フレイはカズィに振り返って、即座に否定した。しかし、
「でも、あの人達の言っている事って間違ってはいないじゃない。病気でもないのに遺伝子を操
作した人間なんて、やっぱり自然の摂理に逆らった、間違った存在よ。本当はみんなだってそう
思っているんでしょう?」
 フレイの淡々とした言葉に、ミリアリアとカズイの表情が曇る。二人だって、フレイほどではない
が『コーディネイター』という存在に多少の恐怖にも似た感情を抱いていたのは確かだった。それ
が友人のキラであっても



「また、ここに居なくてはいけませんの?」
 ラクスがいた部屋に着いた時に、彼女はキラの背中に問いかけた。
「ええ、そうですよ」
 キラが柔和な笑みを浮かべて、ラクスを見る。
「つまらないですわ。ずぅっと独りきり。私は皆さんとお話しながら頂きたかったですのに……」
 ラクスは少し拗ねた様に、椅子に腰掛けた。
「これは地球軍の船ですから。僕とリックの様なコーディネイターを、その、あまり好きじゃないっ
て人もいるし。て言うか今は敵同士だし」
 そうやってラクスを窘めていく内に、キラの顔から笑みが消え、代わりに憂鬱さが表に表れる。
「あら、そちらの方もコーディネイターなんですの?」
 ラクスはキラの言葉を受けて、リックを見た。自分と同じコーディネイターがまさか地球軍で戦
っているとは流石に思わなかったのだろう。
「ああ、自己紹介が遅れましたね。こいつの名前はキラ=ヤマト、そして自分はリック=エンバー
ス伍長です。地球軍にいるのは、自分自身の夢のためですよ。ナチュラルとコーディネイターの
共存。地球軍はナチュラルばかりですから色々勉強になると思って」
 リックは微笑を浮かべてながらラクスを見た。
「えっ! リックさんも、コーディネイターだったんですか?」
 と、クリスが驚いた表情でリックを見る。
「ああ、そうだぜ。ん? やっぱ、コーディネイターは嫌いか? 艦長やおっさんは理解があるか
らいいけど、副長やフレイは思いっきり嫌っているからなぁ」
 リックはクリスの言葉にさらっと答えたものの、何処か表情が暗かった。
「いえ、そんな事はないです。リックさんとキラ君は私達を守ってくださっていますし、コーディネイ
ターも悪い人達ばかりじゃない事が分かりましたから。それに私が嫌いなのは『戦争』ですから」
 クリスは手をパタパタ振ってリック達に微笑みかける。これは彼女の本心である。
「残念ですわね。でも貴方達はお優しいですのね。ありがとうございます」
 ラクスが先程までの拗ねた調子から一転して、穏やかな態度でリック達に感謝の気持ちを述
べる。それを受けてキラの顔がほんのりと赤くなる。
「あら? キラ君、顔が赤いけど大丈夫? 最近は連戦続きだから大変なのも分かるけど、気を
つけた方が……」
「あー違う違う。全く、普段はオドオドした羊のくせに、女の子が絡むと急に狼になるんだよな。あ
〜あ、何でお前さんばかりモテるのかねー」
「だから、違うってば!」
 キラはすぐに察して手をバタバタさせたが、置いてけぼりのクリスとラクスは頭に疑問符を浮か
べながら、そのやりとりを見ていた。
「じゃあ、そろそろ戻ろうぜ? サイやトールばかりに仕事を押し付けるわけにもいかねーし、何
より副長に見つかったら懲罰食らいそうだしよ」
「そうだね。また、来ます。それまでは辛いでしょうけど、我慢して下さい」
「私も色々と勉強になりました。ありがとう、ラクスさん」
 リック達はそれぞれラクスに言葉を掛ける。彼らにとって、ラクスとの会話はとても有意義なも
のだったようだ。
「私こそ、ありがとうございました。それではまた」
 それはラクスにとっても同じ事だった様で、彼女も笑顔で手を振ってリック達を見送った。
「ふぅ〜。結構話し込んでしまったな」
「そうですね。でも、私にとっては有意義でした。私が憎いのは戦争であって人じゃない―それに
気付く事が出来て良かったです。私も、何かしないといけないのかなぁ……」
 首をトントン叩いているリックの横で、クリスは真剣な目をして前を見据えている。キラは少し陰
のある表情を浮かべていた。
「ん? 歌……。あのお嬢ちゃんが歌っているのか」
 リック達は自分の背中、ラクスの部屋から聞こえてくる歌声に耳を傾ける。穏やかなメロディー
と共に、何処までも澄んだ声が彼らの心に染み渡る。暫く彼らはその歌声に聞き入っていた。


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