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第十章 崩壊の兆し
満身創痍のアークエンジェルは、身を寄せるようにオーブに入港した。
既に連合に戻るつもりの無いので、彼らが頼れるのは中立国のオーブだけで
あった。
アークエンジェルは最初に訪れた時と同じように秘密ドックに入港した。それを
見ていたカガリは、いても立ってもいれなくなり、停泊と同時に駆け出し、アーク
エンジェルに入って行った。
ハッチが開くと飛び出すが、逆に重傷の兵士を運ぶ一団が飛び出して来て足
を竦めるが、すぐに駆け出す。
その時、一つの通路を通り過ぎかけた所で、向こう側の通路に目的の人物を
見つけ出し、慌てて引き返した。
「キラっ!」
彼女は思わず叫び、その人物に飛びついた。
「うわっ!?」
キラは、突然、飛び付いて来たカガリを支えきれず押し倒される形になる。カガ
リは、目に涙を溜めて、泣き喚いた。
「このっ・・・バカぁ!」
「カ、カガリ・・・あの・・・」
「お前・・・死んだと思ってたぞ! この野郎っ!」
キラは、喜びと悲しみの入り混じった涙でグショグショの彼女を見て苦笑し、頭
を撫でた。
「ごめん・・・」
微笑んで言うキラに、カガリは本当にキラが生きてる事を実感し、顔を輝かせ
た。
「こんな時間から逢引か?」
『!!?』
その時、頭の上から冷め切った声が投げかけられ、キラとカガリは顔を上げ
た。
そこには相変わらず無表情のアベルとシスカに加え、ニコルが顔を赤くして自
分達を見ていた。
「女が男を押し倒す構図とは珍しいな」
「ですが、アベル。何故か押し倒してるカガリさんが泣いています。この場合、ど
う状況判断すればよろしいのでしょうか?」
「あ、あの〜・・・そういう問題なのでしょうか?」
冷静に状況を分析するアベルとシスカに、ニコルは顔を引き攣らせながらツッ
コミを入れる。
「お、お前ら、何、誤解してるんだ!?」
慌ててカガリはキラから離れ、顔を真っ赤にして否定する。
「・・・・・違うのか?」
「当たり前だっ!!」
「そうか。地球軍を抜けるか」
「はい・・・」
ウズミの言葉にマリューは頷いた。
オーブ軍本部の一室に、アークエンジェル側からマリュー、ムウ、キラ、ノイマ
ン、アベルが、オーブ側はウズミ、キサカ、カガリが会合を行っていた。
そして、ウズミはマリューから詳しい話を聞き、小さく息を吐くとスクリーンに、と
ある映像を出した。
『守備軍は、最後の一兵士まで勇敢に戦った』
それは、地球軍本部の公式発表だった。
『勇敢なる兵達の尊い犠牲により、ザフトの戦力を大幅に削減する事が出来た。
しかし、それを邪魔するものが我々の前に立ちはだかった!』
報道官が表情を険しくし、映像が切り替わった。
その映像にはセフィロトが、連合の機体を破壊していくシーンが映っていた。
キラ達は、その映像に驚愕し、アベルは目を細める。
『ディザーターとなる不逞の輩がザフトに協力しているのだ! これは中立の者
にとって、あってはならない行為である! 逃亡者を名乗っているが、その実体 はオーバーテクノロジーを持ち、地球に害なす者。コーディネイターと全く変わら ないのである! 我々は今後、ディザーターを敵と見なし、断固、戦う事を決意 するものとす―――』
そこでウズミは映像を切った。皆がアベルに視線を向ける。
「ふん。私がやったのはサイクロプスの破壊だ。それに連合だけではなくザフト
のMSも破壊した。奴ら、折角の返り討ちを邪魔されて、我々を障害物としか見 れなくなったようだ」
アベルは連合を貶し、組んでいた腕に力を込める。
そして、何も映っていないスクリーンを睨み付ける。
「面白い・・・。やれるものならやってみろ。だが、貴様らがシメオン達に狙われて
も助けはしない。貴様らを殺す気は無いが、助けてやる気も毛頭ない事を覚えて おくんだな」
そう言ったアベルの目を見て一同は震えた。
「君達が受けた地獄は、我々の想像もつかないものなのだな」
正に地獄を抜けた者にしか出来ないと言う目を見せるアベルに、ウズミは重々
しく呟いた。
「私達だって思い出したくないがな・・・」
アベルは表情を変え、苦笑する。
「大西洋連邦は、中立の立場を取る国々へも、いっそう強い圧力をかけてきてお
る。『連合軍として参戦せぬ場合は、敵対国と見なす』――とまでな」
それはオーブも例外ではない。ウズミはそう付け加え、アベル以外は神妙な顔
付きになる。そして、アベルは非情な現実を口にする。
「ザフトは恐らく、アラスカでの報復としてパナマを落とすだろう。だとすれば、地
球に残されたマスドライバーは、此処かビクトリアしかない。パナマが落とされた 時は・・・」
オーブが戦場になるという言葉が皆の頭に浮かんだ。
それに真っ先に飛び掛っていったのはカガリだ。
「馬鹿な! 中立のオーブを大西洋連邦が攻めてくるって言うのか!?」
「あくまでも可能性だが、極めて高いな。人間、追い詰められたら形振り構ってい
られないものだ」
「そんな・・・。オーブが戦場にだなんて」
愕然とし、足をふらつかせるカガリをキラが支える。
「ウズミ・ナラ・アスハ。その時、貴方はどうする?」
ジッとアベルはウズミの目を見る。ウズミもアベルの目を見つめ返し、重い口を
開いた。
「剣を取り、戦おう」
その答えに満足したのか、アベルはフッと笑い、部屋から出て行こうとする。
「貴方も人の未来に必要な人間のようだ。そういった者を私達は最大限に護る」
そう言ってアベルは扉の取っ手に手をかけるが、ウズミが呼び止める。
「では、君達ディザーターは、人の未来が来たらどうするのかね?」
「・・・・・そうだな」
アベルは目を閉じ、一拍置いて、
「―――皆で宇宙の何処かに引っ込むかな」
自嘲気味に答えると、アベルは部屋から出て行った。
部屋を出ると、すぐそこでシスカが後ろに手を組んで壁に背を預けていた。
アベルは彼女を一瞥し、無言で彼女の前を通り過ぎる。シスカは、そんな対応
に慣れているのか、苦笑し彼の隣を歩く。
「いい人達ですね」
「お人好し・・・とも取れるがな」
「シメオン達と戦って生き残る自信は?」
「さぁな」
「そうですか」
それ以上は聞かない。アベルの事はカインよりも良く知っているつもりだった。
彼には戦うものがハッキリと見えている。
だからアベルは強く、どんな時でも信じる事ができる。それだけの時間を共有
してきたのだ。
「アベル・・・」
「ん?」
「久し振りにアレ、しませんか?」
「・・・・両手と目を使わせたら奢ってやろう」
「約束ですよ」
シスカは小さく笑い、アークエンジェルの甲板に向かった。
アークエンジェルの格納庫で、フリーダムの調整をしていたキラの元にムウが
やって来て、つい先程、パナマが落ちたと言う報を聞いた。
キラはキーを叩く手を止め、フリーダムから出ると目を曇らせた。
「アベルの言った通りになりましたね」
「ああ。となるとオーブも戦場になるのかな?」
「恐らくは・・・」
そうなった事を想像したのか、キラは悲しそうな顔をして顔を伏せる。
「お前は、どうするんだ?」
「え?」
「もしオーブが戦場になったら、お前はどうするんだ?」
そう言ってムウはフリーダムに目をやった。この新しい剣を使い、キラはどうし
ようと言うのか?
そんなムウを見て、キラはフッと笑う。
「・・・ウズミさんやアベル達が目指してるものは同じなんです。ナチュラルもコー
ディネイターも平和に暮らせる世界を創る。それは難しい事かもしれないけど、
必要な世界なんです。だから、僕も同じ未来を見たい。だって僕も・・・ディザータ
ーですから」
そう言った彼の顔は、かつてのキラのものではなかった。今まで弟分として扱
い、自分が叱咤していた少年ではなかった。
そして、今度は自分が諭され、ムウは髪を掻き毟った。
「そうだな。俺達も今はディザーターなんだよな。なら、目的もやるべき事も、アベ
ル達と一緒か」
彼が護ると言ったのなら、自分達もオーブを何としてでも護るべきであると、ム
ウは思った。
「キラ!」
その時、格納庫にカガリの声が響いた。
「エリカ・シモンズが来て欲しいだってさ! 何か見せたいものがあるって・・・あ
れ? アベルは?」
「え? さ、さぁ? そういえば姿が見えないけど・・・」
ちらっとキラはムウを見る。
「いや、俺も知らないぞ」
「アベルでしたら、連れの嬢ちゃんと甲板に行くのを見ましたぜ」
そこに、たまたま通り掛かったマードック曹長が言ってきた。
キラとカガリは揃って首を傾げた。
「甲板? 一体、何で?」
「さぁ?」
「ふ、君達には、まだ判らんかな〜」
何故か怪しく目を輝かせているムウに、キラとカガリは、ますます混乱した。
三人は甲板に出た。そこで、真っ先に目に入ったのはシスカの渾身のパンチを
片手で受け止めたアベルだった。何故かアベルは目を閉じている。
拳を握られた状態のままシスカは蹴りを入れようとするが、アベルも足を上げ
て防ぐ。
二人の激しい攻防が目の前で繰り広げられ、キラ達は呆然となる。シスカがコ
ーディネイターとは知っていたが、はっきり言って、その実力はキラや、軍人とし
て訓練してきたムウ以上だった。
「はぁっ!」
シスカは足を踏み込んで、一気に拳を突き出した。しかし、アベルは正拳突き
を捌き、その腕の肘を突き出す。
「危ない!」
とカガリが叫んだが、その肘鉄はシスカの顔の前でピタッと止まった。
アベルは目を開き、フッと笑みを浮かべる。
「私の勝ちだな」
「ええ。参りました」
シスカも額の汗を拭い、アベルから離れる。
「あ、あの・・・」
「ん? キラか。何の用だ?」
おずおずと話し掛けて来るキラにアベル達は振り向く。
「一体、何を?」
「組手だ」
サラッと答えてアベルは解けていた髪を結んでポニーテールにする。
「組手?」
「はい。とは言ってもハンデありまくりですが」
苦笑しながらシスカが答える。
「ハンデ?」
「私とシスカでは差が開き過ぎてるからな。片手と両目を閉じて相手してるんだ」
「りょ・・・」
3人は思わず口をポカンと開いたまま固まった。
片手で相手ならともかく、両目を閉じて戦うなど普通ではありえない。
「空気の流れや相手の呼吸とかで判断できる」
「そんなのが出来るのは貴方達ぐらいです」
サラリととんでもない事を言うアベルに、タオルを渡しながらシスカがツッコミを
入れる。
「驚いてるところ悪いが、カインは私より強いからな」
キラとムウは更に真っ白になって硬直する。カインを知らないカガリは首を傾げ
て、意見を求めようとキラとムウを見るが、2人とも聞ける状態ではなく、シスカに
視線を移す。
彼女はチラッとアベルを見て苦笑いを浮かべながら言った。
「アベルの親友です。とても頼りになる人ですよ」
「ストライク!?」
「アザゼル・・・」
モルゲンレーテ社でキラとアベルを迎えたのは、それぞれのかつての機体だっ
た。
ムウと、後から付いて来たマリューも呆然と2体のMSを見上げている。
「戻られたのなら、お返しした方が良いと思って」
モルゲンレーテの技術主任であるエリカ・シモンズは言いながら、オーブのMS
――M1アストレイと並ぶストライクとアザゼルを見上げる。
「ストライクはキラ君のOSが乗せてあったけど、その・・・別の人が乗ると思っ
て・・・」
キラが死んだとばかり思っていた彼女は、遠慮がちに言い、ムウがさり気なく
訊いた。
「例のナチュラル用の?」
「ええ。けど・・・」
エリカは表情を暗くしてアベルを見る。
「こっちの黒いMS――アザゼルだったかしら? こっちは私達じゃOSを書き換
える事が出来なかったの。正直、技術の差を思い知らされたわ」
「いや、此処まで修復しただけでも大したものだ」
アベルは彼にとって最大の賛辞をエリカに述べる。
2体のMSはかつての主を待つように佇んでいるが、既に2人とも、これらより
遥かに性能の高いMSを操っている。
「ストライクには私が乗る!」
その時、カガリが勢い良く名乗りを上げ、マリューが『え?』という顔になる。
「あ、勿論、そっちが良いんならの話だが・・・」
「いいや、駄目だ」
マリューが言う前にムウが遮った。
「何でだよ?」
「ストライクには俺が乗るからだ」
これ以上ないパイロットが名乗りを上げ、カガリは何も言い返せない。
キラとアベルはフッと笑みを浮かべる。
「ではアザゼルは私が乗りましょうか?」
そこでアザゼルのパイロットにシスカが名乗りを上げ、皆は驚愕する。
「駄目だ」
しかし、アベルが即答で一刀両断する。
シスカは目をパチクリさせる。
「お前は私が護る。戦場に出る必要は無い」
サラッと恥ずかしい言葉を出すアベルに、キラやカガリは顔を赤くし、ムウ達は
呆然とする。
しかし、当の本人達はごく普通に、接していた。
「そういえば、そうでしたね。出すぎた真似をしてすいません」
「その代わり、しっかりとサポートは頼むぞ」
「了解です」
余りにも自然な2人に、キラ達は思った。
アベルとシスカは恋人ではない。しかし、それ以上に互いを思い合い、信頼し
ているのだと。
そして、それだけの相手がいる事に羨ましいとも思った。
「大西洋連邦がオーブに最後通告・・・か」
兵の報告を受け、ソファに座っているラフィストは口許を歪めた。
「狙いはマスドライバーとモルゲンレーテかな? パナマを落とされて、形振り構
わなくなっちゃいましたね」
ククッとラフィストは苦笑し、目の前のチェス盤を見る。盤上では白のキングが、
黒の駒に囲まれて、チェックメイト寸前であった。
報告をしていた兵は、ラフィストの行動に呆然としながらも直立の姿勢を崩さな
い。
「さて、裸の王よ。自らの身は自らの力で護るしかなくなった。ザフトはどうします
か? ザラ議長閣下」
そう言ってラフィストはデスクに座るパトリックに目を向けた。
彼は焦点の合っていない目の前で手を組み、表情を隠していた。
「・・・・・介入はしない」
まるで機械のようなパトリックの言葉にラフィストは意外そうな顔をする。
「おや? アレの性能のテストはしないおつもりで?」
「・・・・・介入はしない」
「了解しました」
ラフィストは両手を広げて頷いた。チラッと兵に視線で合図すると、兵は敬礼
し、退出した。
「さて・・・」
誰もいなくなった所でラフィストは机の上の通信機のスイッチを入れる。
「ゼオン、そちらの首尾はどうですか?」
モニターにゼオンの顔が映り、尋ねる。
「上々だ。今日だけで40人以上は手に入った」
「ご苦労様です」
「神などが存在したら、俺達はとんでもない神罰が下るな」
「そのようなものは存在しません。あるのは地獄という現実です」
「そうだな」
ゼオンは笑みを浮かべて頷くと、通信を切った。
ラフィストは冷笑を浮かべ、眼鏡を上げた。
「さて、地獄から逃げ出した臆病者の諸君も、そろそろ本腰を上げる頃でしょうか
ね」
まるで、これから始まるであろう祭りを妨害する者達を楽しみにするような――
―そんな顔をラフィストはしていた。
アークエンジェルの格納庫に全クルーが集められた。マリューは厳しい顔付き
で皆を見回していた。
マリューは、皆にオーブに向かって連合軍艦隊が迫っている事を告げた。
地球軍に与し、共にプラントを討つ道を取らぬと言うのならば、ザフト支援国と
見なす。それが大西洋連邦がオーブに突き付けた通告だった。
誰もがパナマが落ちたのは知っている。なら狙いはマスドライバーだと直ぐに
判った。あわよくばモルゲンレーテも手にするつもりだろう。
そして、彼女は中立の立場を貫くオーブと、地球軍の対応を見る限り、戦闘回
避の可能性は非常に低いものと思い、これを機に、クルーの中で、艦を降りたい
者は、退艦させようと考えた。
その光景を上の通路からアベルとシスカは見下ろしていた。
「退艦・・・ですか」
「今の彼女に、クルーを戦闘に巻き込む権限は無い」
「何人、降りるでしょうね?」
「カズイが、ずっと後悔してたからな。奴は降りるだろう」
「それも一つの道ですか・・・」
「逃げる事は恥じゃない。少なくとも私達は逃げた事を後悔していない」
「本当ですか?」
シスカの言葉にアベルは沈黙する。
「少なくとも貴方とカインは後悔し続けている筈です。あの時、逃げ出した事を、
ずっと・・・」
「後悔など・・・していない」
僅かに声を震わせるアベルに、シスカは首を振った。
「無茶をしないでとは言いません。ですが、無理はしないでください。ね、お兄ち
ゃん」
「お前の方が誕生日早いだろう」
シスカは苦笑し、アベルに背を向けた。
「あの時、決めましたから。貴方が辛い時、私は妹になると」
「・・・・そうだったな」
「此処ももうすぐ戦場になります。早く気持ちを切り替えてくださいね」
そう言って、シスカは、その場から去って行った。アベルは黙って、アークエン
ジェルのクルー達を見下ろし、顔に手を当てる。
「相変わらず弱いな、私は。だからカインに勝てないんだ」
ミリィの姿を見て、ディアッカは起き上がった。時折、彼女はディアッカに食事を
持って来ていた。
今ではディアッカの相手をしているのはミリィだけであった。
――今日も素っ気なくされんのかねぇ――
そう思っていると不意に、彼女は鉄格子を開いた。
「? 尋問? それとも移送?」
どっちも余りありがたくないが、それ以上に何処か別の施設に送られ、ミリィと
離れるのが嫌だった。
しかし、彼女の口から出た言葉は意外すぎる事だった。
「この艦、また戦闘に出るの。オーブに地球軍が攻めて来るから」
「はぁ!?」
ディアッカは耳を疑った。仰天する彼に、ミリィは無造作にパイロットスーツを投
げ渡す。
「だから、あんた、もう良いって。釈放よ」
そう言うと踵を返し、とっとと出て行く。
「・・・って! ちょっと待てよ!」
呆然としていたディアッカだったが、ハッと正気に戻り、スーツを抱えて後を追
う。
「おい、どういう事だよ、それ!?」
「だから言ったでしょ? 地球軍が攻めて来るからアークエンジェルは戦うの。そ
れなのに、あんたなんか乗っけてたってしょうがないじゃない。だから降りて」
と、素っ気なく答えるが、それはディアッカの持つ疑問の答えになっていない。
「いや、そうじゃなくて、何でお前らが地球軍と戦うの!?」
地球軍である筈の彼女達が、何で、その地球軍と戦うのか? しかも何で中
立のオーブに地球軍が攻めて来るのか、彼には理解できなかった。
「オーブが地球軍に味方しないからよ」
「はぁ?」
「それに私達も今は地球軍じゃないわ。ディザーターよ・・・地球軍から逃げ出し
たね」
ますます訳が判らなくなり、ディアッカは足を止めた。
「何だそりゃ? ナチュラルってやっぱ馬鹿!?」
「違うわよ」
冷たい声と、冷たい目で振り返られ、ディアッカは後ずさる。
「ディザーターの人達はナチュラルもコーディネイターも関係ない、人の未来を作
ろうとしてるの。だから、私達もそれに協力するのよ」
今度こそディアッカは唖然とした。ナチュラルもコーディネイターも関係ない未
来を作るなど出来る筈が無い。
現に、その例である中立のオーブが地球軍に攻撃されるのだ。コーディネイタ
ーを根絶やす為に。
「早く出て行ったほうが良いわよ。攻撃が始まったら大混乱だと思うから。悪いけ
ど、後は自分で何とかしてね」
「って言われたってよ・・・あ、おい! バスターは!?」
「アレは、もともとこっちのもんよ。モルゲンレーテが持ってたわよ」
「げぇ・・・」
機体も失い、ナチュラルの国に放り出されて、どうしろと言うのだろう。下手すり
ゃ、戦闘に巻き込まれてお陀仏である。
ガクッと肩を落とすディアッカを見て、ミリィは僅かに振り返る。
「こんな事に巻き込んじゃって・・・・ごめんね」
そう言って再び歩き出す彼女にハッとなり、ディアッカは腕を掴んだ。
「お、お前も戦うのかよ!?」
「私はアークエンジェルのCIC担当よ」
つんと言って彼女は腕を振り払う。
「それに・・・オーブは私の故郷でもあるんだし」
そう答えるとミリィは再び歩き出す。そして、手をヒラヒラと振って、
「もし、生き残ってたら、さっき言った未来を楽しみにしててね」
ディアッカは何も言えず、ミリィの背中を見つめていた。その姿は、彼にとって
眩しく見えた。
アークエンジェルの格納庫でフェンリルの調整をしていたニコルは、ふとコック
ピットの前に人影が現れたのに気付いて顔を上げた。
「ニコルさん? 何をしているんです?」
「え? ああ・・・。シスカさん・・・でしたよね?」
驚いているシスカにニコルは微笑んで頭を下げた。
同じ赤でもオーブの軍服を着た彼は手を止め、コックピットから出る。
「どうしたんですか?」
「いえ、フェンリルの調整をしようと思ったのですが、どうやら必要ないようです
ね」
「ええ」
頷いてニコルは、フェンリルを見上げるシスカを見て尋ねた。
「僕も・・・ディザーターでしょうか?」
「え?」
「アベルさん達に接してる内に何が正しくて正しくないのか判らなくなって来たん
です。僕自身、何をしたら良いのか判らなくなって・・・」
何処か悲しそうに言うニコルにシスカは苦笑する。
「軍という束縛から抜けて初めて疑問に思ったのでしょう? そういう迷いは個人
の意志を持った時に初めて生まれるものなのですよ」
「個人の・・・意志?」
「ザフトの軍人ではなく、ニコル・アマルフィ個人として何がしたいのか、考えてく
ださい。その結果、貴方がザフトに戻っても誰も責めません。それが貴方の意志
なのですから」
そう言ってニコッと笑うと、シスカは隣のアザゼルに向かった。彼女曰く、『パイ
ロットはいなくても調整しておくに越した事はない』だそうだ。
ニコルは拳を強く握り、フェンリルを見上げた。
アークエンジェルのブリッジでは、マリューは窓からドックを見つめていた。後、
数時間でオーブは戦場となる。割り切ったつもりだが、やはり地球軍と戦うのは
心中複雑であった。
彼女は溜め息を吐くと、背後から声がかけられた。
「な〜に黄昏てんの? 艦長さんが」
ムウがエレベータから出てきた。彼は、マリューの元に歩み寄り、
「結局、退艦は11名。皆、凄いじゃないの。よっぽどアラスカでの事が頭に来た
のかね〜?」
つまり大半は残った事になる。つまり艦長である自分は、それだけの人間の
命を預かるという事である。プレッシャーと不安が大きく圧し掛かり、マリューは
『そうですか』と頷いて顔を伏せた。
ふとマリューは、頭の中に疑問が浮かび上がり、口にした。
「少佐は・・・何で戻って来られたんですか? アラスカで・・・」
あの時、ムウは戻って来た為に転属命令違反という罪を被った。何故、そこま
でするのだろうかと、彼女は疑問だった。
「え!?」
ムウは、その質問に驚き、ガクッと肩を落とした。
「やれやれ・・・今更、訊かれるとは思わなかったぜ」
するとムウは答える代わりに、マリューを引き寄せ唇を重ねた。突然の行為に
マリューは一瞬、硬直するが、自然に身を任せていた。
やがて唇を離し、ムウは満足げに笑う。マリューは顔を赤くし、彼から視線を逸
らしながら言った。
「わ、私はMA乗りは嫌いです!」
「あ、俺、今MS乗り」
『そういう問題じゃない』と言おうとしたが、再びムウの唇に塞がれ、遮られた。
彼女も判っていた。最初のキスで相手を拒まなかった事で。
マリューは何も拒まず、ただムウを受け入れた。
「失礼しま・・・」
その時、用があって入って来たノイマン達は、2人を見て硬直する。彼らには少
し、刺激が強かったのかもしれない。
雲の間から金色のMS――クライストは眼下に広がる連合艦隊を見下ろしてい
た。
「ふん。味方を犠牲にしてまでやった結果がコレか。情けねぇな地球軍は」
シメオンは憎々しげに艦隊を見下ろし吐き捨てた。
リベンジャーである自分にとって全ての人類が裁きの対象であるが、軍人に対
しては、より強い憎悪を抱いていた。
その時、彼は自分の胸の鼓動が早くなるのを感じた。
「く、くくくく・・・・。どうやら俺の血も貴様らの血が欲しいらしい」
シメオンは息を荒々しくし、連合艦隊の旗艦パウエルから3機のMSが発射さ
れたのを視界に捉えた。
「さぁ・・・祭りの始まりだ」
狂気に歪んだ笑みを浮かべ、クライストは急降下して行った。
「何だぁ!?」
黒い――赤の縁取りをした翼を持つ――MAに乗るパイロット、クロト・ブエル
は上空から急接近するMSに気付き、顔を上げた。
その上に乗る青緑色の――重武装した――MSのパイロット、オルガ・サブナ
ックは振り落とされそうになる。
「何しやがる!?」
「うるせぇ! 何か来てんだよ!!」
クロトは反論するが、前方からアークエンジェルの砲撃に気付き、回避する。
そこから3機のMSが飛び出して来た。セフィロト、フリーダム、フェンリルだ。
「アレは・・・」
セフィロトに乗るアベルは、目前から迫ってくる3機の上から太陽の光を背に、
黄金に輝くMSに気付く。
「アベル! アレは・・・」
「あの時の!」
キラとニコルも気付き、順に言ってくる。
「ああ、シメオンだ。キラ、ニコル。奴の相手は私がする。お前達は、連合の新型
を!」
「判った!」
「了解しました!」
アベルは、キラとニコルに指示を出すと、更に高く飛び、クライストに向かって
行った。
「ニコル、僕が行くから君は援護を!」
「判りました!」
キラはビームソードを抜き、敵のMSに向かって行った。ニコルは、フェンリルを
MA形態に変え、後方から狙撃するが、海中から現れた巨大な鎌を持ったMS
に妨害された。
「!!?」
「へへへ・・・」
そのMSのパイロット――シャニ・アンドラスは不気味に笑い、フェンリルに背を
向けるとフリーダムに迫っていった。
「! キラさん、後ろ!」
「!!」
ニコルに叫ばれ、フリーダムは緑色の機体――フォビトゥンの攻撃を間一髪で
避けるが、MS形態に変形した黒い機体――レイダーの鉄球を背中から喰らう。
青緑色の機体――カラミティは、既に陸地に降りて行ったようだ。
「うわっ!」
「キラさん!」
慌てて、ニコルはフリーダムの援護に向かった途端、凄まじい衝撃波が一体
に響いた。
『!!?』
キラ、ニコル、クロト、シャニは動きを止め、上空を見上げた。
そこでは、激しくぶつかり合うセフィロトとクライストがあった。
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