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第三章・歌姫
「桃から生まれた桃太郎〜♪」
「それ・・・何の歌?」
「今の状況にピッタリだと思いません?」
マリューの質問に、カインは微笑みを浮かべて答えた。
その視線の先には、お婆さん、もとい、キラが拾ってきた桃太郎、ではなく、ポ
ッドの中から現われたコーディネイターのアイドルがいた。
「ラクス・クライン・・・。プラント最高評議会議長、シーゲル・クラインの一人娘か」
アベルの質問に、ラクスは微笑みを浮かべたまま、
「はい。ですが、困りましたわ。此処はザフトの艦ではないのですね」
「残念ながらな」
何故か周りは緊迫してるのに、全く普通に話すアベルに、未だに歌い続けて
――しかもギターを出して――いるカイン。クルー達は揃って頭痛を感じた。
「わたくし、ユニウス7の追悼慰霊のための事前調査に来ておりましたの。そうし
ましたら、地球軍の船とわたくしどもの船が出遭ってしまいまして、見検するとお
っしゃるのでお受けしたのですが、地球軍の方々にはわたくしどもの船の目的
がどうやらお気にさわられたようで、些細な、いさかいから船内は酷い揉め事に
なってしまいましたの。そうしましたら、わたくしは周りの者達にポッドで脱出させ
られたのですわ」
「なるほど。地球軍も敵意の無い船を沈めるとはな・・・」
横目でマリュー達を見ると、彼女達はバツが悪そうに視線を逸らした。
「あの、わたくし、これからどうすれば?」
「キラ」
「何?」
「適当な空き部屋に案内してやれ」
「何故、僕が?」
「ハロが懐いている」
そう言ってアベルは、キラの周りを跳ねる赤い球体ロボ、【ハロ】を指差す。
「お前が適任だ」
「理由になってないよ」
「いいか行け」
ラクスの背中を押し、キラに押し付けるとアベルは笑みを浮かべる。
キラは頬を僅かに赤くして、ラクスを案内した。
「ちょっとアベル君、勝手な指示は・・・」
「尋問でもするのか?」
マリューの言葉を遮り、アベルが尋ね返す。
「スパイという可能性も考えられる」
「ほう? では我々は? ディザーターなどという怪しい組織の我々は何もしない
のか?」
ナタルの言葉にアベルは、笑みを浮かべたまま返す。それに反論することが
出来ずナタルは顔を俯かせる。
「私達は戦う力がある。だが彼女には無い。自分が優位に立てる相手にしか大
きく出れないのだな。地球軍というのは」
辛辣なアベルの言葉に、皆は言い返せなかった。言葉には出さなくても、無意
識のうちに、そう思ってるのかもしれない。
「まぁ、これはお前達の戦争だ。好き勝手やってろ」
そう言ってアベルは、その場から去っていった。
残ったのは、俯いたままのクルーと、肩を竦めるカインだった。
アークエンジェルの食堂で、フレイはミリィ達に怒鳴っていた。
「嫌よっ!! あの女の所に食事を持って行くなんて・・・。コーディネイターなん
て何をするか判ったものじゃないわ!」
それを聞いて食堂に入って来たキラは愕然し、黙って聞いていたアベルの眉も
僅かに吊り上がる。
「フレイ・・・!」
ミリィに怒鳴られ、フレイはそこにキラがいた事にハッとした。
彼女は慌てて顔の前で手を振り、
「あ、も、もちろんキラは別よ。それは分かってるわ。でも、あの子はザフトの子で
しょう? コーディネイターって、頭いいだけじゃなくて運動神経とかも凄くいいの
よ。何かあったらどうするのよ! ねぇ?」
「そんな考えを持つ人間がいるから戦争は終わらないんだ・・・」
ポツリとアベルが呟く。
しかし、それは全員に聞こえ、皆、アベルの方を見る。
「ナチュラルに善い人間がいれば悪い人間もいる。コーディネイターも然り。フレ
イ、お前はラクス・クラインが、お前を襲って来るような女だと思うか?」
そう言われ、フレイは彼から視線を逸らし、顔を伏せる。
その時、扉が開き、何故か軟禁しているラクスとハロが入って来た。
「あら? 此処は食堂ですか?」
突然の登場に驚く一同。ラクスはコクッと首を傾げ、彼らの顔を見回す。
「まあ、驚かせてしまったのなら、すみません。わたくし、喉が渇いて・・・。それ
に、笑わないでくださいね。だいぶお腹も空いてしまいましたの。こちらは食堂で
すか? 何かいただけると嬉しいのですけど・・・」
「鍵は?」
「さぁ?」
アベルの質問にラクスも首を傾げる。
フレイは彼女を憎々しげに見て、
「やだ・・・! なんでザフトの子が勝手に歩き回ってんの!?」
「わたくしはザフトではありません。ザフトは軍の名称で、正式にはゾディアック・
アライアンス・オーブ・フリーダム――」
「一緒よ! 同じコーディネイターなんだから!」
「同じではありませんわ。確かにわたくしはコーディネイターですが、軍の人間で
はありませんもの」
ラクスを親の仇のように罵言を浴びせるフレイと、穏やかに微笑みながら対応
するラクス。アベル以外はポカンとしている。
「あなたも軍の方ではないのでしょう? でしたら、わたくしとあなたは同じです
わね。ご挨拶が遅れました。私は――」
そう言ってラクスは静かに手を差し出すが、フレイは下がり、
「ちょっとやだ! やめてよ!! 冗談じゃないわ! 何で私があんたなんかと
握手しなきゃなんないのよ! コーディネイターのくせに、馴れ馴れしくしない
で!!」
その台詞にキラの友人達は一斉にキラを見た。彼は、大きく目を見開き、唇を
震わせている。
アベルは、その様子を見て小さく溜め息を吐く。
「私の言った事が全然、判ってないな」
「あら?」
ラクスはアベルに気付き、彼の前までやって来た。
「貴方はディザーターの方と聞きましたが、本当なのですか?」
「カインか・・・」
あの能天気自称紳士が、これほどの美少女を放っておく筈が無い。自分達の
事をベラベラと話す姿がリアルに想像でき、少し頭痛がした。
「はい。カイン様とおっしゃいましたわ。食堂の場所を教えてくださったりして、大
変、親切にして頂き・・・・」
――後でボコる――
アベルは、そう決心した。
「まさか、地球軍の艦でディザーターの方とお会い出来るとは思いませんでした
わ。わたくしはラクス・クラインと申します」
「アベル・ハートレットだ」
自己紹介し合い、ごく自然に握手する二人。それを見てフレイは驚愕し、
「ちょ、ちょっと貴方! ナチュラルのクセに、何でコーディネイターの女と握手な
んか・・・」
「ウチじゃ普通だ」
「まぁ、ディザーターの方達はコーディネイターもいらっしゃるのですか?」
「ああ」
「っていうか、アベルの恋人もコーディネイターなんだよね〜ん♪」
その時、何処から現れたのか、カインがアベルの肩に手を回し、意地悪そうな
笑みを浮かべて言ってきた。
「・・・・カイン、恋人じゃない。ただの幼馴染だ」
「元気してるかなぁ、彼女?」
ごっ!!
とりあえずカインの脳天に一発入れた。カインは無言で床に倒れる。
「あらあら、まぁまぁ」
頬に手を当てて驚く――そんな様子は微塵も無いが――ラクス。そして、一連
の光景に一同は呆然としていた。
吉報だった。合流予定だった第8艦隊の先遣隊として、モントゴメリ、バーナー
ド、ローの3艦が派遣された。
更にモントゴメリにはフレイの父である地球連合外務次官ジョージ・アルスター
も乗艦していた。
父を尊敬するフレイは、徹底的にお洒落をするが、喜びも束の間、ラクス捜索
をしていたクルーゼ隊の網に引っ掛かり、攻撃を仕掛けてきた。
そしてイージスと、十数機のジンによって、あっという間にバーナードとローは
撃沈された。モントゴメリにも彼らの魔手が迫るその時、イージスの上からレー
ザーが降ってきた。
「何!?」
アスランは上を見ると、そこには漆黒の翼のMS、アザゼルがいた。
「その艦に手出しはさせん」
「ディザーターか!」
「悪いが殲滅・・・」
「待って!!」
アザゼルが、イージスに攻撃を仕掛けようとした時、通信でキラが待ったをか
けた。やがて、アザゼルの隣にストライクが来る。
「キラ?」
「そいつは僕がやる」
「・・・・・・・・」
そう言うキラの映像に映る目を見て、アベルは溜め息を吐く。
「判った。私はジンを片付ける」
「ごめん」
アベルはフッと笑みを浮かべると、その場から飛び去って行った。
ストライクとイージスは戦闘を開始する。それを見てアベルは、キラとイージス
のパイロットは何か関係があると確信した。
一方、別の場所ではカインの乗るフェンリルと、クルーゼ隊の隊長である、ラ
ウ・ル・クルーゼのジンが戦いを繰り広げていた。
「やるな、白銀のパイロット君!」
「カイン・クレストって名前があるんですよ、ラウ・ル・クルーゼ!」
フェンリルのアンカーキャノンがジンを捕らえようとするが、難なく避ける。そし
て、ビームライフルで反撃され、肩をやられる。
「くっ!」
「ディザーターとは、このようなものかね、カイン君?」
がきんっ!!
「何!?」
余裕の台詞を吐くクルーゼだったが、先程、避けたアンカーキャノンが後ろから
ジンの足に噛み付いた。
「神をも喰らう狼に捕まったら、逃げる事は不可能ですよ」
そう言うと、アンカーキャノンはジンの足を引き千切った。
「ちぃっ!」
「これで終わり!」
トドメを刺そうと、アンカーキャノンを戻し、それをジンに向けた時、レーダーに
後方からの攻撃を察知した。
「ちっ! 死に損ないが!」
クルーゼの援護にやって来たジンを見て、カインは目を鋭くさせた。
その隙を突き、クルーゼは、彼の艦・ヴェサリウスに戻って行った。
「やれやれ・・・。折角、追い詰めたのに」
カインは小さく溜め息を吐き、狼の頭部をジンに向けた。
「・・・・・・僕を怒らせた君らが悪いんだよ」
すると、そこから強力な閃光が放たれ、5機以上あったジンが、あっという間に
消滅した。
フェンリルの切り札「トールハンマー」だ。
見るも無残なジンの残骸の向こうから、アザゼルがやって来た。
「派手にやったな」
「まぁね。ラウ・ル・クルーゼみたいな大物を、こいつ等のせいで逃がしちゃった
から・・・」
「まだジンが残ってる。とっとと片付け・・・・」
そう言った時、ヴェサリウスの主砲が横切った。閃光は、ジンの応戦で疲弊し
て切っていたモントゴメリを貫き、やがて艦は爆発した。
「一杯、食わされたな・・・」
「奴らの狙いはMSでの殲滅ではなく主砲か・・・。まんまとやられたね」
僅かに怒気を含みながら、カインとアベルは閃光の中に消えていくモントゴメリ
を見詰める。
やがて、アークエンジェルからラクスを人質にしているという事が告げられ、ク
ルーゼ隊の撤退を要求した。
「こりゃ何とも・・・」
「情けないな」
カインは肩を竦め、アベルは冷たく言い放った。
「そんな! パパの船が! パパが・・・!」
アークエンジェルに戻った時、フレイは半狂乱状態だった。
父を失った悲しみの余り、サイに抱き付いて泣き叫ぶフレイ。それを見て、キラ
は申し訳なさそうな顔をする。
フレイは、そんなキラを睨み付け、
「嘘つき!!」
と、言い放った。
「『大丈夫だ』って言ったじゃない! 『僕たちも行くから大丈夫だ』って!」
恐らく出撃前に約束したのだろうが、キラにとって、それはフレイを安心させる
為の気休め程度のものだった。しかし、フレイの中では、それは約束であり、何
よりも優先されるべき事だったのだ。
「何で、パパを守ってくれなかったのよ!? 何で、あいつらをやっつけなかった
のよ!?」
フレイの責めに、キラは言い返さない。
アベルもカインも彼ほどショックは受けてないが、何も言い返さない。
「あんた、自分もコーディネイターだからって、本気で戦ってないんでしょう!?」
そう言われ、キラはビクッと震えた。その言葉にはアベルも反応し、目を鋭くさ
せ、
「そんなにパパが好きなら、一緒の所に送ってやろうか?」
『!!?』
突如、アベルはフレイに向かって銃口を突き付ける。
「お前、勘違いしてないか? 宇宙はザフトの縄張り。そして艦隊に乗って来ると
いう事は戦場に来るという事だ。そこで命を捨てる事は当たり前の事だ」
「な、何よ! パパは軍人じゃないのよ!」
「艦隊に乗って来た時点で軍人と同じだ」
「う・・・」
「で? 父親の下に送って欲しいか?」
撃鉄を引き、アベルは問う。
フレイは『ひっ!』と悲鳴を上げ、腰を抜かす。それを見たアベルは、呆れるよう
に息を吐き、銃を下ろす。
「ふん・・・。あの船を守れなかったのは我々のミスだ。だが、キラを責めるのは
やめてやるんだな。キラは自分より強い相手と戦ってたんだ。コーディネイターと
はいえ万能じゃない」
「何よ! じゃあアンタは責められても良いの!?」
「勝手にしろ。そういう事には慣れてるんでな」
「え?」
そう言って、アベルは何処かへ去って行った。
カインは、ポリポリと頬を掻いて、
「あ〜・・・・ま、気を落とさないで・・・って言う方が無理か」
カインは両肩を竦め、小さく溜め息を吐いた。
その夜――宇宙に夜も何も無いが――、キラはラクスを連れ出し、MSの格納
庫を目指していた。
「キラ様、何故?」
「貴女は此処にいちゃいけない・・・」
何処か悲しそうに答えるキラをラクスは見詰める。
「キラか」
「!? アベル!」
その時、前方から声がして、キラはラクスを庇うように立つ。
そこにはアベルが厳しい目をして立っていた。
「何をしている? MSの格納庫はこっちだ」
「え?」
「早くしろ。見つかる」
「あ、う、うん」
何故か案内してくれるアベルを不審に思いながらもキラはラクスと供に後に付
いて行った。
「良いの? こんな事をしたら君も・・・」
「別に私は軍の人間じゃない。それに、お前のしてる事が間違ってるとは思えな
いんでな」
ストライクにラクスを乗せ、キラが通信で訊いて来た。アベルは、特に気にした
様子も無く平然と答える。
「それより、あのイージスのパイロットとお前、何か関係があるのか?」
唐突なアベルの質問に、キラは驚くが、先の戦闘での遣り取りを見られては当
然の質問だろう。
「親友・・・なんだ」
「親友?」
「名前はアスラン・ザラ。僕と違って、優秀で何でも出来る奴だったよ」
――ザラ・・・。プラントの国防委員長パトリック・ザラの息子か――
キラの親友という者の名前を聞き、アベルは、とある人物を思い描いた。
「ヘリオポリスで再会して、こうして戦うなんて・・・思ってもみなかったよ」
「・・・・・皮肉だな」
「うん・・・」
そう答えた後、キラは通信を繋いだ。
『こちら地球連合軍、アークエンジェル所属のMS、スト ライクだ。ラクス・クライン
を同行、引き渡す! ただし、ナスカ級は艦を 停止、イージスのパイロットが単
独で来る事が条件だ!』
一応、アベルのアザゼルもいるが、地球連合ではないので言わなかった。
そして、クルーゼは、その要求を飲んだ。仕掛けようと考えたが、アザゼルが
艦を狙っているのを見て、下手な手は打たない方が利口だと判断した。
やがて、彼らの前にイージスがやって来た。
ハッチを開き、アスランが姿を見せると、ラクスをストライクの外に出す。ラクス
は宙を舞い、アスランの下に行った。
その途中、振り返って微笑み、
「キラ様、アベル様。お世話になりました」
頭を下げて礼を言うラクスにアベルは苦笑し、ハッチを開く。
アスランは、ディザーターのパイロットが自分と年齢の変わらない少年に驚愕
する。
「元気でな」
「はい」
「アスラン・ザラ。しっかり送り届けてやれ。その女は、これからの時代に必要な
者だ」
――これからの・・・時代?――
アスランは、その言葉に首を傾げねがらラクスの手を取ると、
「キラ! お前も一緒に来い!!」
「!?」
「お前が地球軍にいる理由が何処にある!?」
突然の誘いにキラは困惑し、アスランとアベルを見比べる。
「・・・・別に、行っても良いぞ。それが、お前の決めた道ならな」
敢えて突き放し、キラ自身に判断を任せるアベル。
キラは、ギュッと拳を握り、
「僕だって・・・君となんか戦いたくない」
震えながら呟き、キラは顔を上げる。
「でも、あの艦には護りたい人達が・・・友達がいるんだ!!」
「キラ!」
アスランが叫び、アベルはフッと笑みを浮かべる。
「僕は・・・友達を護りたい!」
「キラ・・・」
ギュッとアスランは拳を強く握り、唇を噛み締めた。
「なら仕方ない・・・次に戦う時は、俺がお前を撃つ!!」
「・・・・僕もだ!!」
二人は、お互いを見合い、視線を交わす。
アベルは、それを見て静かに目を閉じ、ハッチを閉じた。
キラとアスランもハッチを閉じる。そして互いに背を向け合い、それぞれの居場
所に戻って行った。
『さて・・・今後のザフトの動向が気になるな。カインに頼むか』
これからの出来事を予測し、アベルはアークエンジェルに戻って行った。
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